権田猛資の台湾ノート

台湾生活の中で見たこと、学んだこと、考えたことを記録していきます。

米台政府が「太平洋対話」を初開催、深化を続ける米台関係

10月7日、台北市内にて米台双方は初めて共同で「太平洋対話」(Pacific Islands Dialogue)を開催しました。米国からはサンドラ・オードカーク・米国務省次官補代理が出席し、吳釗燮・外交部部長も同席しました。

 

サンドラ・オードカーク氏は「トランプ大統領ポンペイ国務長官を代表して、この対話を進めたい」(2019年10月7日、自由時報)と開幕式で発言。台湾を信頼できる、責任あるパートナーと位置づけ、台湾と太平洋島嶼国との関係を支持することを強調しました。

 

台湾外交部のプレスリリースによると、この米台政府間対話の枠組みは、太平洋島嶼国の発展に寄与する援助・協力を進めることを話し合うもので、米台共同で普遍的価値を守護し、太平洋地域における平和と安定、繁栄の護持を標榜したものです。

 

最近では、太平洋島嶼国のソロモン諸島キリバス共和国が相次いで中華民国(台湾)との断交を発表し、台湾政府は2カ国との外交関係を終了しました。

これらは中国が台湾の国際空間を圧迫させるために、金銭外交を用いて攻勢を仕掛けているものと台湾外交部は認識しており、今回の米台の政府間対話の開始は、自由で開かれた太平洋を守護する覚悟を米台が明らかにしたという重要な意味合いがあると考えられます。

 

2016年に発足した蔡英文政権下において、着実に深化を続ける米台関係について、一般財団法人自由アジア協会に文章を寄稿しましたので以下に転載します。

 

深化する米台関係(2019年6月19日、自由アジア協会寄稿)

f:id:taiwan_gontake:20191007200015p:plain

名称変更したばかりの「台灣美國事務委員會」の看板

 1979年1月1日に米国が中華人民共和国と国交を樹立して40年が経った。今年は節目の年であるにもかかわらず、米中間の貿易戦争は収まる気配もなく、祝福ムードは見られない。その一方で、米台関係の深化が着実に進んでいる。

 

 これまで米国の対台湾政策方針は「台湾関係法」を原則としてきた。同法は米国が中国との国交樹立に伴い台湾にある中華民国と断交したことを契機として定めたもので、今日まで米国は同法に基づき、事実上、台湾との外交及び防衛関係を維持してきた。

 

 しかし、2017年のトランプ大統領就任以降、米国はこれまでの対台湾政策方針をさらに深化させ、新しい米台関係の構築を志向しているように思われる。なぜなら、近年、米国は台湾関係法が定める政策方針を堅持しつつ、新たに台湾に関する重要な法律として、2018年3月16日に「台湾旅行法」、同年12月31日に「アジア再保証推進法」をそれぞれ定めたからである。前者は、これまで自主的に制約してきた国家安全保障分野を含むあらゆるレベルの政府高官の相互訪問を奨励した法律である。米華断交以降の最大の「タブー」を解禁したと言って良い。また後者は、米国のインド太平洋地域における戦略や対外政策方針を定めた法律で、米国の新たな対台湾政策方針として、台湾関係法を含むこれまでの全ての米国の対台湾政策方針を引き続き忠実に履行していくとともに、台湾への武器売却の継続、先述の台湾旅行法に基づく政府高官の相互訪問を奨励することを明記した。

 

 また、6月1日に発表された米国防総省の「インド太平洋戦略レポート(Indo-Pacific Strategy Report)」においても、米国の対台湾重視姿勢は顕著であった。同レポートでは、インド太平洋地域に対する挑戦者として、第一に「修正主義勢力としての中国」を挙げている一方、台湾を連帯すべき重要なパートナーとして位置付けている。自由で開かれた国際秩序を維持する上で積極的に貢献している「国家(country)」として台湾を挙げており、「米国は台湾との強固なパートナーシップを追求し、インド太平洋の安全と安定に広く関与していくため、台湾関係法に忠実であり続ける」との対台湾政策方針を示した。また引き続き台湾が自主防衛能力を維持できるようにするため、必要な防衛装備品及び役務を提供することも約束した。

 

 台湾もまた米国とのさらなる関係強化に注力している。5月25日には、台湾の外交部が対米窓口機関である「北美事務協調委員會」(Coordination Council for North American Affairs)の名称を「台灣美國事務委員會」(Taiwan Council for US Affairs)に変更することを発表した。これまでの曖昧だった機関名称に「台灣」と「美國」(米国の中国語表記)をそれぞれ明記することで、台湾の対米窓口機関としての役割を明確にする画期的な変更であった。6月6日の新看板の除幕式には蔡英文総統も出席し、米台関係の相思相愛、蜜月状態を象徴する「新たな一里塚」(蔡英文総統)となった。

 

 また、外交部は今回の名称変更を発表した際、李大維・国家安全会議秘書長が5月13日から21日まで訪米したこと、そして訪米中にボルトン・国家安全保障担当大統領補佐官と会談したことも明らかにした。米台双方の国家安全保障を担う高官の直接会談が公的に明らかになったのは、米華断交後、初のことである。タブーなき政府高官による直接対話の実現は、今後も米台間の信頼醸成を加速していくことが期待される。

 

 以上のように、目下、米台は連帯すべきパートナーとして、関係強化を着実に進めている。台湾関係法の制定から40年を経て、米台関係は新たな転換点を迎えたのであろう。

 

 さて、日本はどうか。自由や民主主義といった普遍的価値観を共有する米台と連帯し、自由で開かれたインド太平洋を護持することこそ、日本の国益であるはずだ。そのためには近年の米台の緊密化に歩調を合わせ、より踏み込んだ新しい日台関係の構築に舵を切る時機にあると思われる。今こそ、国家戦略としての日本の対台湾政策方針を論じ、日本版「台湾関係法」の必要性を考えるべきではないだろうか。日本の為政者に問われるのはその覚悟の有無である。

 

Youtube

www.youtube.com