権田猛資の台湾ノート

台湾生活の中で見たこと、学んだこと、考えたことを記録していきます。

ソロモン諸島が中華民国(台湾)断交、急がれる「島国」の連帯強化

 台湾にある「中華民国」と正式な外交関係を有する国がまた一つ減った。南太平洋のソロモン諸島中華民国との外交関係の見直しと中華人民共和国との国交樹立を決めたことを受けて、台湾政府は9月16日、ソロモン諸島との外交関係の終了を宣言した。これにより中華民国が外交関係を有する国は16カ国となり、2016年に誕生した蔡英文政権下で断交した国は6カ国目を数える。

 

 16日、ソロモン諸島の政権連立与党は、中華民国との断交及び中華人民共和国との国交樹立に関する臨時会議を開いた。その会議では全33議席のうち、外交関係の見直し支持が27票(反対0票、棄権6票)を占めた。同国のマナセ・ソガバレ首相は閣議を開き、前述の臨時会議の勧告を受け入れ、外交関係の見直しを決定したのである。

 

 ソガバレ首相は過去にも首相経験があり、以前から中国との「近さ」が指摘されていた。ソガバレ首相が三期目を務めていた2017年、ソロモン諸島とオーストラリアの間に海底ケーブルを敷設する計画があり、中国通信機器大手の「華為技術(ファーウェイ)」が契約を獲得したことがあった。結局、この計画は中国の影響力拡大を懸念したオーストラリア政府が自ら海底ケーブル設置計画に乗り出すことで、ファーウェイの介入を阻止した。当時、ソガバレ首相及び同首相が率いた政党はファーウェイから政治献金を受けた疑惑が報じられている。したがって、今年4月、親中派とされるソガバレ首相が再任された際、遅かれ早かれ中華民国と断交し、中国と国交を樹立することは十分に想定されていた。

 

 ソロモン諸島政府の決定を受け、台湾政府は16日18時30分(台湾時間)、呉釗燮(日本の外務大臣に相当)外交部長が記者会見を開き、36年に渡って続いたソロモン諸島との外交関係の終了を宣言する声明を発表した。声明では中国がソロモン諸島に対して「金銭外交」を展開したことを指摘し、今般の断交が2020年1月に行われる総統及び立法委員選挙を前にした台湾に対する「攻撃」であり、「選挙に影響を与えることを企図しているのは明らか」であると中国を非難した。

 

 蔡英文総統も同日19時30分(台湾時間)に総統府で談話を発表した。蔡総統は、近年、中国が金銭的・政治的圧力によって台湾の国際空間を圧迫していることを非難し、こうした中国の振る舞いが台湾に対する脅威にとどまらず、「国際秩序に対する公然たる挑戦であり、それを破壊するもの」であると警鐘を鳴らした。また中国が台湾への圧力を強めている背景に、米国による台湾へのF-16戦闘機売却決定に対する報復や香港の「逃亡犯条例」改正案反対デモの焦点ずらしの意味合いがあることに言及した上で、台湾が圧力に屈することはないと力強く語った。

 

 「海洋強国」の目標に向けて邁進する中国は、太平洋における覇権掌握を志向し、既存の国際秩序への挑戦を試みている。そのための手段として、中国は「一帯一路」構想に太平洋島嶼国を組み入れ、近年、同地域に対する経済支援を増大してプレゼンスの拡大を図っている。

 

 ソロモン諸島との断交により、中華民国が外交関係を有する太平洋島嶼国は5カ国(キリバス共和国マーシャル諸島共和国ナウル共和国パラオ共和国、ツバル)となった。中国は今後もこれら太平洋島嶼国に対する更なる「金銭外交」を展開し、中華民国との断交を迫っていくだろう。

 

 国際秩序に対する中国の挑戦は、「自由で開かれたインド太平洋」を標榜する日本や米国、豪州にとっても看過できない脅威である。南シナ海で進める軍事拠点化と同様、中国は太平洋諸島地域においても軍港を建設するなどして軍事的プレゼンスを拡大していくことが予想される。日米豪、そして台湾の海洋安全保障にとって太平洋島嶼国は地政学的に重要であり、中国の挑戦に対峙することが共通の国益である。また「航行の自由」など海洋における法の支配の概念を太平洋島嶼国と共有することも重要だ。

 

 日本は1997年以降、太平洋島嶼国との関係強化を目的に、三年毎に「太平洋・島サミット」を開催している。前回は2018年5月に開催され、「自由で開かれたインド太平洋戦略」の基本的な理念が共有された。

 

 筆者は、この太平洋・島サミットに台湾を招待することを提案したい。海洋における法の支配や海洋資源の持続可能な開発、気候変動への対処など、国際社会の共通の課題に対して海洋国家間の連帯と協力は欠かせない。前回サミットでは「地域」であるニューカレドニア仏領ポリネシアも参加しており、招待にあたり国交の有無は問題にならないはずだ。そして、この太平洋・島サミットの開催国である日本がその気になれば台湾を招待することも不可能ではないだろう。日本と太平洋島嶼国、そして台湾を加えた「島国」の連帯強化は、海洋における平和と安定に大いに寄与する。国際秩序の守護者としての日本のイニシアチブを期待したい。

 

(2019年9月18日、一般財団法人自由アジア協会「権田猛資のフォルモサ・ニュース」第24号)

 

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断交翌日の「聯合報」一面

 

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