権田猛資の台湾ノート

台湾生活の中で見たこと、学んだこと、考えたことを記録していきます。

台湾初のデパート「菊元百貨店」創業者・重田栄治のご子孫が祖先の足跡をたどるため台湾へ

10月9日から12日まで、日本統治下の台湾で実業家として活躍した重田栄治のご子孫ら17名が、重田栄治の足跡をたどるため台湾を訪問しました。

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重田栄治のご子孫ら(2019年10月11日、菊元百貨店屋上にて)

一行は滞在中、重田が開業した菊元百貨店の内部に特別に入り見学を果たすなど、重田と所縁のある台北市内の地を巡りました。

 

重田栄治は、1877(明治10)年に現在の山口県岩国市に生まれました。14歳の時に重田の姉が嫁いだ菊元家に奉公し、綿織物業を営む菊元家の商売を手伝いました。

1903(明治36)年に2回目の渡台を果たし、台北にて「菊元商行」を開設して、本格的に台湾でのビジネスを始めました。その後、事業を拡大する中で、1932(昭和7)年に旧台北市栄町にて台湾初のデパート「菊元百貨店」を開業しました。

菊元百貨店を経営する一方、台北郊外の士林付近にあった天母温泉をはじめ、天母教の開祖・中治稔郎と共同で三角埔(現在の天母)の開発を手がけるなど、実業家として日本統治下の台湾で活躍しました。

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重田栄治(写真提供:中治宣光さん)

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昭和42年発刊の『重田栄治の思い出草』などをまとめた小冊子。今後、完全版の冊子発行を考えているとのこと

今回の訪台は、重田栄治の長女・稲子のご長男である中治宣光さんが、2017年5月15日に台北市文化局が歴史建築に指定した菊元百貨店の参観を希望し、関係公的機関や台湾在住作家・片倉佳史さん、現在建物の所有権を持つ國泰建設股份有限公司の担当者らの協力を得て実現に至りました。

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今回の菊元百貨店訪問を企画し、ツアーを取りまとめた中治宣光さん

 10月11日に菊元百貨店の建物内部に入り、かつての建物の柱やエレベーター跡、屋上の避雷針などを見学しました。

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菊元百貨店内部を参観する重田栄治のご子孫。内部見学の実現を調整した台湾在住作家・片倉佳史さんが解説

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屋上からはかつての総督府(現・総統府)が正面に見える

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菊元百貨店の外観。戦後に一部増築されている

今回初めて建物に入り「当時の階段や水洗トイレの跡が見られて感動した」という重田栄治の次男・巳代治のご長男である重田定太郎さんは、「どんな形で残していただけるかわからないけれども、台湾の歴史の中で日本統治時代に(菊元百貨店が)できたということを未来永劫伝えていってほしい」と語りました。

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重田栄治のご令孫・重田定太郎さん

 10日には、重田栄治が天母教(てんぼきょう)の開祖・中治稔郎と共同で開発を手がけた三角埔(現在の天母)の地を訪れ、中治が湄州から持ち帰った媽祖像を安置している三玉宮を参観しました。

天母教は天照大神と媽祖をともに祀った宗教で、日本統治下の台湾で総督府から正式に認可された宗教でした。

前述の中治宣光さんによると、天母教の教義には「皇国史観」に連なるものがあり、総督府も台湾を統治する上で「利用できると考えたのでは」と認可された背景を推察します。

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天母教開祖・中治稔郎が湄州から持ち帰った媽祖像

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天母教の歴史について紹介する中治稔郎のご令孫・中治隆さん

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玉宮の倉庫に眠る日本時代から残る役割を終えたご神体

また11日の午後には重田がかつて暮らした家に近い台北市立建成國中(かつての建成小学校の一部校舎を現在も使用する)を訪れ、黃啟清・同校校長を表敬訪問しました。黃校長自ら、校史室や古蹟教室など構内をご案内いただきました。

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建成國中の黃啟清校長先生と

 今回、私は幸運にも重田栄治のご子孫にあたる皆様に同行させていただく機会に恵まれました。

祖先が生きた土地に実際に足を運び、足跡をたどりながら、当時どのような志で台湾の地で生き抜いたかを想像して感慨に耽る皆様の姿がとても印象に残りました。

 

また、参加された皆様は、「どこへ行っても現地の台湾人が手厚く親切にもてなしてくれる」と口を揃えておっしゃっていました。

今回お世話になった台湾人は皆様、自らの郷土史として日本時代の歴史を学び、その跡を大切に守り残そうとして奔走されている方々でした。

 

先人たちが紡いできた日本と台湾の歴史の絆を、いまを生きる世代がしっかり受け継いでいかなければならないと改めて実感した4日間でした。

 

 

【関連記事・書籍】

<菊元百貨店・重田栄治について>

片倉佳史さん「城内散策〜中山堂と旧「栄町」周辺」(交流、2015年2月)

栖来ひかりさん『台湾と山口を繋ぐ旅』(西日本出版社、2018年11月27日)

<天母教について>

片倉佳史さん「台北の歴史を歩く 天母の歴史を探る」(交流、2013年3月)

 

 

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