権田猛資の台湾ノート

台湾生活の中で見たこと、学んだこと、考えたことを記録していきます。

中華民国(台湾)が欧州で唯一外交関係を有するバチカン

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バチカン大使館。2015年に移転した

10月10日から陳建仁・副総統は、欧州で唯一外交関係を有するバチカンを訪問するための外遊に出発しました。13日にはフランシスコ法王と面会し、法王の台湾訪問を招請しました。

敬虔なカトリックとしても知られる陳建仁・副総統のバチカン訪問により台湾とバチカンの友好が確認されました。

一方、中国は昨年、バチカンと「歴史的和解」とも言える急接近を果たしました。

 

中華民国と外交関係を有する国に対し、あの手この手で接近し、台湾の国際空間の締め付けを図っている中国が、今後、バチカンに対して如何に攻勢をかけるか、要注目です。

 

昨年9月、中国とバチカンの間で中国における司教の任命権問題について、双方の臨時協議が暫定合意に達したことを受けて、一般財団法人自由アジアに寄稿した文章をこちらに転載いたします。

 

 

中国とバチカンが急接近へ、台湾の「現状維持」はいかに(2018年9月26日、一般財団法人自由アジア協会寄稿)

 9月22日、中国外交部は王超副部長がキリスト教カトリックの総本山であるバチカンの代表団と北京で会談し、中国における司教の任命権問題について、双方の臨時協議が暫定合意に達したことを発表した。暫定合意の詳細は明らかになっていないが、最大の懸案であった司教の任命権問題で一定の合意を得たことは双方の関係改善を象徴するものとして注目に値する。

 

 これまで司教の任命権問題をめぐっては、任命権はローマ法王に帰属するとの立場であるバチカンに対し、中国は宗教の内政干渉を理由にそれに反発し、長年、双方は対立関係にあった。また中国とバチカンが1951年に国交を断絶した一方で、バチカンは1942年以来、一貫して中華民国との外交関係を維持してきた。中華民国にとってバチカンは欧州で唯一外交関係を有する国である。したがって今回の歴史的和解とも言える中国とバチカンの急接近は、台湾社会でも大きな関心を呼んでいる。

 

 中国が暫定合意を発表した22日、中華民国外交部は声明を発表した。声明では今回の暫定合意が「中国のカトリック教会と世界の普遍的教会との融合、ひいては中国における信仰の自由促進につながることを期待している」とした上で、中国当局による国内のカトリック教徒に対する締め付けに懸念を示し、ローマ教皇庁が彼らを保護する対策を講じていくよう期待を表明した。加えて暫定合意は「中華民国バチカンの76年目を迎えた国交関係を損ねるものではない」との認識を示し、10月中旬に政府訪問団を派遣することも明らかにした。表向きは福者パウロ6世教皇列聖式への参加であるが、敬虔なカトリック教徒としても知られる陳建仁副総統を派遣する可能性も取り沙汰されており、国交関係維持の確認がなされるか注目される。

 

 また暫定合意後、呉釗燮外交部長は自由時報の単独インタビューに応じている。そのなかで、外交部がバチカンの政策決定に携わる高官と恒常的に対話を続けていることを明らかにし、今回の暫定合意は「司教の任命に関わるものだけであり、台湾に関する議題や政治外交的意味合いは決してない」と強調した。また「台湾とバチカンの関係は非常に良好」との認識を示しつつも、一方で、今後の両国関係は「慎重だが悲観しない態度」で臨むとし、事態を厳粛に受け止めている様子も覗かせた。

 

 近年、徐々に進展を見せてきた中国とバチカンの関係改善だが、今回の暫定合意はこれまで以上に双方の歩み寄りを加速させる契機となりそうである。そしてこの動きが単に中国政府が宗教政策を見直す機会になるか否かにとどまらず、中国が台湾を国際社会から孤立させるための圧力の一環として認識しておく必要がありそうだ。今後、中国とバチカンが国交樹立に向けて更に接近していく可能性も否定できず、中華民国バチカンが外交関係を維持できるかも焦点となる。

 

 蔡英文政権は対中政策として「現状維持」の方針を掲げている。しかし中国の圧力を前にいつまで現状が維持できるか、台湾は正念場を迎えている。そして台湾が維持すべき現状は日本の国益でもあるはずだ。今後の台湾海峡からますます目が離せない。

 

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