権田猛資の台湾ノート

台湾生活の中で見たこと、学んだこと、考えたことを記録していきます。

ソロモン諸島が中華民国(台湾)と断交

 9月16日、ソロモン諸島政府は台湾にある「中華民国」との断交を発表し、中華人民共和国と国交を樹立することを決めました。これを受けて台湾政府はソロモン諸島との外交関係を終了し、中華民国と正式な外交関係を有する国は16カ国となりました。

 

 2016年に誕生した蔡英文政権下で断交した国は、サントメプリンシペ(20161221日)、パナマ2017613日)、ドミニカ(201851日)、ブルキナファソ2018524日)、エルサルバドル共和国(2018年8月21日)に続いて6カ国目となります。

 

 この「断交ドミノ」を台湾人はどう受け止めるか、2020年1月に行なわれる総統選挙の結果に影響を与えるのか、これから要注目です。

 

 一連の「断交ドミノ」については、過去に一般財団法人自由アジア協会に関連記事を寄稿しましたので、こちらに転載致します。

 

ブルキナファソとの断交から一夜、外交部長が政治大学で講演(2018年5月25日、自由アジア協会寄稿)

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母校の政治大学で講演する呉釗燮外交部長

 5月24日、西アフリカに位置するブルキナファソは台湾との国交断絶を宣言した。これを受けて、中華民国政府はブルキナファソとの外交関係を終了し、大使館の撤退や援助計画の停止などを決定した。同日夜には呉釗燮外交部長が国際記者会見を開き、5月1日のドミニカ共和国との断交を含めて一ヶ月のうちに2つの国と断交した責任を取るため、口頭で蔡英文総統に辞意を伝えたことを明らかにした。

 

 ブルキナファソとの断交及び辞意表明から一夜が経った25日、呉部長は母校である国立政治大学台北市)で講演を行なった。呉部長は冒頭、「外交部長は来るのか」、「現部長か前部長のいずれの身分で来るのか」など学生から心配の声が上がっていたことを教員から聞いたことに触れ、「私は依然として外交部長です」と断言した。また蔡総統から外交成果が悪くないことから「辞任の必要はない」と慰留され、「引き続き我が国の外交のため奮闘する」と自身の続投を明らかにした。また、会場に想像以上の多くの聴衆が駆けつけたことに対し、「昨日、中国政府が私のために広告を打ってくれた。中国政府に感謝します」とジョークを言う余裕も見せて会場を沸かせた。

 

 約1時間の講演のなかで、呉部長はWHO総会への参加が拒否された問題などに言及しながら台湾外交の特殊性、困難を指摘し、自身の駐米代表などの経験を交えながら、台湾の外交官一人一人が台湾の外交空間の拡大のために闘っていることを強調した。また中台関係について、自身の考えは対中政策を主管する大陸委員会主任の際に形成されたとし、中台関係が悪化している時こそ主要な民主主義国家との関係強化を促進すべきという考えは現在に至るまで変わらないと語った。大陸委員会主任の際には一年で複数回、アメリカや日本などを訪れ、関係者や機関と積極的に交流し、民主主義国の台湾への支持と理解を取り付けていたという。最近の中国による台湾への圧力については、統一のための圧力が却って双方の距離を遠ざけているとの認識を示し、「この傷は一生癒えないだろう」と中国政府のやり方を批判して、圧力には屈しない決意を語った。

 

 呉部長は、かつて陳水扁政権下で総統府副秘書長、行政院大陸委員会主任を歴任し、初の民進党籍駐米代表も務めた。また2014年には蔡英文民進党主席のもとで民進党秘書長として支え、そして2016年5月20日蔡英文政権が発足してからは国家安全会議秘書長、総統府秘書長を経て、今年2月26日に外交部長に就任した。まさに蔡英文総統の右腕的存在である。

 

 5月11日には外交部内に新たに「インド太平洋科」を設置した。これは東南アジア諸国との関係強化を目指す蔡英文政権の「新南向政策」と、アメリカ、日本、オーストラリアなどの国々が提唱する「自由で開かれたインド太平洋戦略」を結びつけ、積極的に連携していくことを目的としている。

 

 現下の台湾外交は中国の圧力による相次ぐ断交と国際機関への参加妨害によって危機に直面していることは間違いない。その突破口として、日米をはじめとする民主主義国家との連携を促進して活路を見いだせるか、台湾外交の舵取り役としての呉釗燮外交部長の手腕が今後も注目されそうだ。

(2018年5月25日、一般財団法人自由アジア協会「権田猛資のフォルモサニュース」第3号)

 

 

エルサルバドル共和国と断交、繰り返される中国の「文攻武嚇」(2018年9月4日、自由アジア協会寄稿)

 8月21日午前10時、呉釗燮外交部長は記者会見を開き、台湾政府が同日をもってエルサルバドル共和国との外交関係を終了したと宣言した。会見の冒頭約4分、2枚のA4用紙に目を落としながら原稿を読みあげる呉部長の表情は固かったが、発せられた言葉に悲壮感はなく、語気には強い怒りが込められているようだった。その怒りはエルサルバドル共和国というよりも、むしろ中国に向けられていた。

 

 呉部長は、これまでの経緯として、エルサルバドル共和国側から同国東部のラ・ウニオン港開発のために多額の資金援助を求められていたが債務不履行リスクが大きいことから拒否したこと、また2019年に大統領選挙を控えた同国の政権与党から選挙資金協力の要請があったが拒絶したことを明らかにした。その上で「いわゆる『金銭外交』や、金銭による中国との競争、ひいては違法な政治献金などは、いずれも無責任なやり方である」として断交に至った背景には中国による「金銭外交」があったとの認識を示した。

 

 また同日正午、前日深夜に8泊9日の中南米歴訪から帰国したばかりの蔡英文総統も総統府にて談話を発表した。蔡総統は断交が一連の中国による台湾への「文攻武嚇」(言葉による圧力と武力による威嚇)の一環であると断じた。実際、最近の中台関係は、中国軍機の台湾周辺での飛行や国際航空会社に対する「台湾」表記の変更要求、台中で開催予定だった「東アジアユース競技大会」の中止、台湾発のカフェ「85度C」に対する不買運動など、立て続けに中国の圧力が繰り返されていた。蔡総統に言わせれば、エルサルバドル共和国との断交も台湾が国際社会から孤立するために中国によって行われた不断の圧力の一つということである。そして蔡総統は「今日の中国の要求やあらゆる行いは台湾のすべての主要政党のボトムラインを越えた」と非難し、主権を護持するためには国内の団結が必要であると訴えた。短い談話の中に「団結」という単語は6回使われた。

 

 今般の断交後、米国は22日に国務省、23日にホワイトハウスがそれぞれ声明を発表している。今回初めて、ホワイトハウスが報道官名義で声明を発表したことは異例であった。声明では「米国は中国による両岸関係の安定の破壊と西半球における内政干渉に引き続き反対する」と言明しており、トランプ政権の台湾問題に対する関心の高さをうかがわせた。

 

 さて、蔡英文政権下で断交した国は、サントメプリンシペ(2016年12月21日)、パナマ(2017年6月13日)、ドミニカ(2018年5月1日)、ブルキナファソ(2018年5月24日)、そして今回のエルサルバドル共和国で5カ国となった。中台関係の改善に活路が見いだせない中、今後も中国の台湾に対する圧力、また中華民国が外交関係を有している国に対する中国の「金銭外交」は続いていくだろう。現状、中華民国と外交関係を有する国は17カ国だが、今後さらにその数を減らすことは十分に考えられる。

 

 蔡英文政権は発足以来、米国や日本をはじめ民主主義や自由、法の支配など普遍的価値観を共有する国々との関係強化によって台湾の国際社会からの孤立を防ごうと取り組んでいる。一方、米国や日本にとっても台湾海峡の平和と安定は東アジア地域の安全保障問題として他人事ではなく、民主主義の台湾が台湾であり続けることが死活的に重要である。したがって中国の台湾に対する「文攻武嚇」を黙って見過ごすわけにはいかない。日本も台湾との実務関係をさらに強化し、いかにして台湾の孤立を防ぐか、今こそ知恵の絞りどころである。

(2018年9月4日、一般財団法人自由アジア協会「権田猛資のフォルモサニュース」第12号)

 

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